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MRIパルスシーケンス解説 — 整形外科領域

EPI・SSFP

骨髄・軟骨・関節——
整形外科MRIを支える2つのシーケンスを、
臨床現場の視点から解き明かす。

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01

整形外科MRIの基礎

MSK領域を構成する組織と、その緩和時間

組織T1 (ms)T2 (ms)特徴
皮質骨極短極短全シーケンスで低信号
骨髄(黄)~250~60脂肪主体 → T1高信号
骨髄(赤)~500~45造血性 → T1中〜低信号
関節軟骨~1000~30T2中信号・dGEMRIC対象
半月板~350~15線維軟骨 → T1/T2とも低信号
靭帯・腱~400~10規則的コラーゲン → 低信号
筋肉~900~50T1中信号・T2中信号
関節液~3000~2000T2極高信号

MSK画像診断は「何が高いか、何が低いか」の信号パターンを読むことから始まる。組織ごとのT1/T2差を理解することが全ての基盤。

02

T2*減衰とMSK画像

磁化率アーチファクトが逆に診断の鍵になる

1/T2* = 1/T2 + γ・ΔB0

MSK領域でT2*が重要な理由

骨・軟骨・空気の境界では局所磁場不均一(ΔB0)が大きく、T2*減衰が著しい。この磁化率効果は:

  • 皮質骨周辺:信号消失(ジオメトリ歪み)
  • 関節置換術後:金属アーチファクト増悪
  • 脊椎:椎体・椎間板境界で信号乱れ

T2*マッピング — 新しい指標

軟骨の早期変性をT2*マップで検出する研究が進展中。T2値より短い時間スケールで組織変化を捉える可能性。

【MSK領域の磁化率要因】

┌──────────────┐
│  空気(副鼻腔)│ ← 大きなΔB0
├──────────────┤
│  皮質骨       │ ← 大きなΔB0
├──────────────┤
│  骨髄(脂肪) │ ← 中程度
├──────────────┤
│  軟骨         │ ← 小さい
├──────────────┤
│  筋肉         │ ← 小さい
└──────────────┘

金属(インプラント):
  ΔB0 極大 → 信号消失・歪み
  → SEMAC/MAVRICで対策
03

EPIの原理 — K空間一括走査

1回の励起で全ての位相エンコードを完了する

EPI(Echo Planar Imaging)は1回の90°パルスでK空間全体を走査する超高速法。読み出し傾斜磁場を高速反転させ、blipパルスで位相エンコード方向に段階的に進む。

なぜEPIが整形外科で重要か

  • DWI(拡散強調)の基盤 → 骨髄病変スクリーニング
  • 50-100msで1スライス取得 → 体動に強い
  • 脊柱全体のDWIが実用的な時間で可能

EPIは「速さ」の技術ではなく、DWIという画像コントラストを実現するために不可欠な技術。

【EPIパルスシーケンス模式図】

RF  90°─────────────────────────
Gss ─┴──────────────────────────
Gpe ─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─
     blip(弱い位相エンコード)
Gro ─┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬
     (強い読み出し往復)
Sig ─┬─┴─┬─┴─┬─┴─┬─┴─┬─┴─┬─┴

│← 50-100ms(single-shot)→│

K空間:ジグザグ(ラスタ)軌跡
04

EPIのショット方式 — 整形外科での選択

スピードか、画質か — 病変によって変わる最適解

Multi-Shot

時間
数秒
長所
高分解能・低歪み
短所
体動リスク

四肢関節の高精細DWI

RS-EPI

特徴
読み出し方向分割
長所
歪み大幅低減
短所
時間延長

金属近傍・脊柱管評価

整形外科の実務:脊椎DWIはSingle-Shotが主流。肩・膝などの末梢関節では分解能優先でMulti-ShotまたはRS-EPIを検討。金属近傍はRS-EPIが第一選択。

05

DWIの基本 — b値とADC

拡散強調画像のパラメータを読み解く

b値 — 拡散感度の制御

S = S₀・e-b・ADC

b値感度SNR用途
0なし最高ベースライン
500骨髄スクリーニング
800-1000標準標準DWI
1500+悪性疑い・精査

ADCマップ — 定量化の鍵

ADC(見かけの拡散係数)を算出することで、主観的な信号強度を数値化。良性・悪性の鑑別に重要。

【ADC値の目安】

正常骨髄:0.2-0.6
  ×10⁻³ mm²/s

良性圧迫骨折:0.5-1.5
  → ADC高(浮腫・血管性)

悪性脊椎病変:0.3-0.8
  → ADC低(細胞密度高)

化膿性脊椎炎:0.5-1.2
  → ADC中〜高

※ 数値は文献により変動
  定量化には施設固有の
  カットオフ設定が必要
06

整形外科DWI — 骨折・骨壊死

DWIが最も活躍する整形外科の3領域

① 良性 vs 悪性圧迫骨折

ADC値による鑑別が可能

良性骨折:細胞外腔拡大 → ADC高値。悪性病変:腫瘍細胞緻密 → ADC低値。b=1000 DWI + ADCマップが標準プロトコル。

② 大腿骨頭壊死(AVN)

早期検出にDWIが寄与

虚血による細胞死 → 壊死部の拡散制限 → DWI高信号・ADC低下。X線変化が出る前の早期診断に寄与。T1・STIRと併用して評価。

③ 疲労骨折・微細骨折

骨髄浮腫の拡散変化を捉える

微細骨折に伴う骨髄浮腫はSTIR高信号だが、DWIでも反応性変化を示す。ただし骨折の急性期はADC高値を示すこともあり、時相による解釈の注意が必要。

07

整形外科DWI — 感染症・腫瘍

化膿性脊椎炎と骨軟部腫瘍の鑑別

化膿性脊椎炎

椎間板と隣接椎体の感染症。STIR高信号に加え、DWIで膿の拡散制限を確認することで診断の確からしさが高まる。硬膜外膿瘍の検出にも有用。

骨軟部腫瘍の鑑別

病変DWIADC解釈
悪性腫瘍高信号低値細胞密度高
良性腫瘍低〜中高値細胞密度低
膿瘍高信号極低粘稠な膿
壊死組織低信号高値細胞崩壊
【整形外科DWIの撮像指針】

1.5T標準プロトコル:
  SE-EPI
  b値:0, 1000
  FOV:病変に応じて
  マトリクス:128×128〜
  スライス厚:4-5mm
  脂肪抑制:必須(STIR併用)

3Tの場合:
  b値800でSNR確保
  RS-EPI検討(歪み対策)
  マトリクス向上可能

全身DWI(WB-DWI):
  ステージングに有用
  STIR+EPI composite
08

EPIアーチファクト — MSK対策

整形外科領域で特に問題になる3つの歪み

① 磁化率アーチファクト

空気-骨・金属境界で画像歪み

脊椎(骨-靭帯-空気)、術後(インプラント)で顕著。対策:SE-EPI選択、z-shimming、RS-EPI、可能なら3Tより1.5T。

② ケミカルシフト(位相方向)

骨髄脂肪と水の信号がズレる

骨髄(脂肪主体)と周囲組織(水主体)の境界でシフト。脊椎評価では致命的。対策:脂肪抑制必須、広帯域受信。

③ N/2ゴースト

K空間往復の非対称性

位相方向に反復像が重なる。MSKでは関節の解剖的判読を阻害。対策:自動位相補正、参照スキャン精度の確保。

09

SSFP — 定常状態の物理学

TRがT2*より短い世界で何が起きるか

SSFP = Steady-State Free Precession。極短TRの連続RFパルスで横磁化が完全減衰する前に次の励起が来る。5-7回のRFで定常状態に到達。

Balanced SSFPの信号

S ∝ T2/T1

水(関節液):T2/T1大 → 高信号。脂肪(骨髄):T2/T1小 → 中信号。靭帯・腱:プロトン密度低 → 低信号

関節液が高信号・軟骨が中信号・骨が低信号——このコントラストが整形外科評価に最適。

【定常状態の条件】

∫Gss dt = 0(スライス方向)
∫Gpe dt = 0(位相方向)
∫Gro dt = 0(周波数方向)

→ 1TR内で全傾斜磁場の
   正負が完全バランス

【MSK組織の信号(bSSFP)】
関節液  :■■■■■ 極高
軟骨    :■■■□□ 中〜高
骨髄    :■■□□□ 中
筋肉    :■■□□□ 中
皮質骨  :□□□□□ 極低
半月板  :■□□□□ 低
靭帯・腱:■□□□□ 低
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Balanced SSFP — 軟骨・関節評価

液体が高信号になる特性が関節診断を支える

関節軟骨評価

Param設定
TR4-6ms
TE2-3ms
FA40-60°
優位性軟骨-液コントラスト
用途変性評価・術前mapping

半月板・靭帯

Param設定
3D取得任意断面再構成
優位性高SNR・短時間
用途半月板断裂・ACL損傷
注意魔術角効果

脊椎・脊髄

Param設定
手法3D bSSFP(CISS等)
優位性髄液-脊髄コントラスト
用途脊髄空洞症・神経根
注意椎体間のbanding
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SSFPの整形外科応用 — 3DとParameter

高分解能3D取得がもたらす関節診断の進化

3D SSFPの優位性

薄層連続取得+任意断面再構成が可能。関節の複雑な3D解剖を一覧でき、手術計画に直結する情報を提供する。

ベンダー名称特徴
GEFIESTA / FIESTA-CPhase-cyclingでbanding低減
SiemensTrueFISP / CISSCISSは2回取得でbanding除去
PhilipsbFFE / bTFESegmented k-space対応

Ernst角とSNR最適化

cos θE = e-TR/T1

TR=5ms, T1(軟骨)≈1000ms → θE ≈ 4°。しかしbSSFPはT2/T1信号なので、FA 40-60°が関節評価の実用的範囲。

【膝関節 3D bSSFP例】

TR:5-7ms
TE:2-3ms
FA:45-55°
FOV:14-16cm
マトリクス:256×256
  or 320×224
スライス厚:0.5-0.8mm
取得時間:3-5分

【肩関節例】
TR:5-6ms
FA:40-50°
スライス厚:0.6-1.0mm
用途:関節唇・棘上筋腱
  Bankart/Bankart変法

【股関節例】
TR:6-8ms
FA:50-60°
用途:寛骨臼唇・軟骨
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SSFPアーチファクト対策

整形外科領域で直面する3つの問題

① Banding artifact

fat-water位相不一致による信号消失帯

3Tで顕著。骨髄脂肪-水境界で暗帯が出現し、軟骨評価を阻害。対策:phase-cycling(FIESTA-C/CISS)、shimming最適化、1.5T選択。

② 流動アーチファクト

血流・関節液の流動による信号変化

関節周辺の血流がbSSFPの定常状態を乱す。対策:flow compensation、SAT pulse配置、TE短縮。

③ 魔術角効果

55°で整列したコラーゲン繊維のT2延長

腱・靭帯が主磁場と55°をなす角度でT2が延長し、高信号として描出。病変との鑑別が必須。対策:TE延長で軽減、またはT2加重で確認。

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EPI vs SSFP — 整形外科シーン別選択

整形外科臨床シーン別 選択ガイド
臨床シーン選択理由
脊椎圧迫骨折の鑑別EPIDWI + ADCで良性/悪性鑑別
化膿性脊椎炎EPI膿の拡散制限を確認
骨軟部腫瘍の質的評価EPIADCで細胞密度を推定
関節軟骨の変性評価SSFP軟骨-液コントラストに最適
半月板・靭帯損傷SSFP3D高分解能・任意断面
脊髄・神経根評価SSFP髄液-脊髄の高コントラスト
大腿骨頭壊死EPI+SSFPDWI+形態評価の併用
術後金属周囲MAVRIC/SEMACEPI・SSFPとも困難
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まとめ — 整形外科MRIの2つの武器

EPIの役割

DWIという画像コントラストを実現する基盤。
骨髄病変の鑑別(骨折・感染・腫瘍)に不可欠。ADCマップで定量的評価が可能。

SSFPの役割

液体-軟骨コントラストを生み出す高速3D法。
関節・半月板・靭帯の高分解能評価。任意断面再構成で手術計画を支援。

共通の課題

アーチファクトとの戦い。
磁化率(EPI)、banding(SSFP)——原理を理解すれば、対策は見える。1.5Tと3Tで戦略が変わる。

EPIは「病変の性質を見極める」技術。

SSFPは「関節の形態を鮮明に描く」技術。

両者を使い分けることが、
整形外科MRIの質を決める。