MRI

「なぜこのシーケンス?」に即答する

MRI1年目が「理解なき撮像」から抜け出すための考え方

MRI1年目が「理解なき撮像」から抜け出すための考え方。TR・TE・FA・FOV・マトリクスを数値ではなく役割とトレードオフ(コントラスト・分解能・SNR・撮像時間・アーチファクト・SAR)で整理し、周波数/位相方向の区別、撮像/表示マトリクス、金属アーチファクト対策(VAT・SEMAC・MAVRIC)とCTのMARとの違い、追加撮像の思考手順、質問技法、読影レポートによる事後検証、学習記録まで若手技師向けに実務的に解説します。

MRI TR TE FA マトリクス FOV SNR 金属アーチファクト SEMAC MAVRIC 追加撮像 診療放射線技師

2026/7/18

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01 はじめに

標準プロトコルの外で表面化する

「なぜこのシーケンスを使うのですか?」――プロトコル名や設定値は答えられても、その理由を説明するのは難しい、という経験はないか。

MRI業務を始めて1年ほど経つと、ポジショニング、コイル装着、撮像範囲の設定、患者説明など、一連の検査はある程度スムーズに行えるようになる。しかし、標準プロトコルから外れる患者に遭遇すると、理解の差が表面化する。

  • 体格が標準と大きく異なる
  • 疼痛や認知機能低下により静止が難しい
  • 金属インプラントが存在する
  • 通常とは異なる方向の追加撮像が必要になった
  • 画質を保ちながら撮像時間を短縮したい
  • 医師から「この部分をもう少し詳しく見たい」と相談された

このとき必要なのは、設定値の暗記ではない。

どのパラメータを変更すると、何が改善し、何が悪化するか

を説明できることである。


02 本稿を読むうえでの注意

数値は目安、表記は方向名を併記する

本稿の数値や設定例は原理を理解するための目安であり、そのまま臨床プロトコルとして使うことを推奨するものではない。適切な設定は次の条件で変化する。

  • 磁場強度・装置メーカー・ソフトウェアバージョン
  • シーケンス方式・2Dまたは3D
  • 撮像部位・使用コイル
  • 患者の体格や状態
  • 必要な診断情報・施設の運用基準

また本稿では、2D撮像のマトリクスを原則として次の順で記載する。

周波数方向 × 位相方向(例:288 freq × 192 phase)

装置画面・DICOM・文献では表記順が異なる場合がある。数字の並びだけで判断せず、frequency/phase/read/rows/columns などの表示を確認する。


03 パラメータは「数値」ではなく「役割」で理解する

数値単独では評価できない

MRIの設定値は、単独では評価できない。同じTRやTEでも、SE/FSE/GRE/IR/EPI、2D/3D、磁場強度、部位、コイル、parallel imaging によって意味も適切範囲も変わる。

数値そのものを覚えるのではなく、その数値を変更したときの方向性を理解する。

パラメータを変更するときは、少なくとも次の観点を同時に確認する。

  • コントラスト
  • 空間分解能
  • SNR
  • 撮像時間
  • アーチファクト
  • SAR
  • 患者負担

一つの項目だけが改善し、ほかは何も変わらない調整は少ない。分解能を上げればSNRが下がり、位相マトリクスを増やせば時間が延びる。このトレードオフを意識することが、「理解なき撮像」から抜け出す第一歩になる。

MRIパラメータと画質要素の関係

各パラメータは単独ではなく、画質・安全・患者負担へ複合的に影響する。教育用模式図。


04 TR:縦磁化の回復

縦磁化の回復と撮像サイクル

TRは、RF励起を繰り返す間隔。古典的なspin echoでは、TRを短くすると組織ごとのT1回復の違いが信号差として表れやすくなり(T1強調)、TRを長くするとT1回復差の影響は小さくなる。

TR TE 得られやすい強調
短い 短い T1強調
長い 長い T2強調
長い 短い PD強調

ここで注意したい。

TRが長ければ自動的にT2強調になるわけではない。

T2強調には十分なTEも必要で、長TR・短TEならPD強調に近づく。またFSE/TSEでは1回のTR中に複数の位相エンコードを取得するため、撮像時間はTRだけでは決まらない(ETL/turbo factor、位相エンコード数、NEX、parallel imaging、partial Fourier、compressed sensing、同期など)。「TRを長くしたから撮像時間も比例して延びる」とは限らない。


05 TE:横磁化の減衰

横磁化の減衰とT2・T2*の影響

TEは、励起からエコーを取得するまでの時間。TEを長くすると横磁化の減衰が進み、T2値の違いがコントラストとして表れやすくなる(信号は低下しやすい)。

TEを短くする TEを長くする
T2減衰を抑えやすい T2/T2*コントラストを強くしやすい
SNRを保ちやすい 信号が低下しやすい
磁化率の影響を抑える 磁化率・位相分散の影響を受けやすい
金属周囲の信号欠損を軽減しやすい GRE系ではT2*減衰が強くなる

minimum TEはbandwidthやgradient性能に制限される。

FSE/TSEで表示されるTEはeffective TEであることが多い。echo train内で複数の異なるTEのデータが収集され、k-space中心付近をどのechoで埋めるかで主要コントラストが決まる。そのためTEだけでなく、effective TE・ETL・echo spacing・k-space ordering・refocusing flip-angle train・T2 blurring・stimulated echoも確認する。

TRによる縦磁化回復とTEによる横磁化減衰

TRは縦磁化の回復、TEは横磁化の減衰を捉える。曲線と画像は概念を示す教育用模式図。


06 FA:Spin echo/FSE

Spin echo/FSE では常に90°ではない

FAは、RFパルスによって縦磁化をどの程度傾けるかを示す。しかしFAの意味はシーケンスによって異なる。

基本的なspin echoでは90°励起と180°再収束パルスが使われる。ただし現在のFSE/TSEでは、次の目的で可変再収束フリップ角が用いられることがある。

  • SAR低減
  • echo trainの長時間化
  • 画像コントラストの制御
  • 3D撮像の効率化
  • T2 blurringの調整

FSE/TSEを「FAは常に90°」と単純化するのは適切ではない。


07 FA:Gradient echo

GRE では FA大 ≠ T1強調

GREでは、TR・TE・FA・spoilingまたはsteady-stateの条件が組み合わさってコントラストが決まる。そのため、

FAが大きいほど常にT1強調が強くなる

とは限らない。短TRの3D spoiled GREでは、造影T1強調画像であっても90°よりかなり小さいFAが選択されることがある。

適切なFAは次の条件で変化する。

  • TR・組織のT1・必要なコントラスト
  • SNR・SAR・spoiling条件
  • 造影前後・2Dまたは3D

FAは固定値として暗記するのではなく、シーケンス名とTRを含めて確認する必要がある。


08 FOVとマトリクス:表記順とpixel size

FOVだけ・マトリクスだけでは判断しない

面内のpixel sizeは、単純化すると次のように考えられる。

周波数方向pixel size = 周波数方向FOV ÷ 周波数方向acquisition matrix 位相方向pixel size = 位相方向FOV ÷ 位相方向acquisition matrix

FOVだけ、またはマトリクスだけを見て分解能を判断してはいけない。

メーカーのコンソール・文献・DICOM viewerでは、frequency × phase、read × phase、phase × frequency、rows × columns、matrix X × matrix Y など表記が異なる。撮像断面や周波数方向の入れ替えでも、画像上の左右・上下とfrequency/phaseの関係は変化する。

数値を記載する際は、可能な限り方向名を併記する。

3Dでは「320 read × 224 phase × 160 partition」のように、read 1方向と phase 2方向(面内+slice/partition)を区別する。

FOV、マトリクス、ピクセル、ボクセルの関係

FOVをマトリクスで分割してpixelが決まり、スライス厚を加えるとvoxelになる。表示補間とは区別する。


09 撮像マトリクスと表示マトリクスを分ける

補間で増えた画素は分解能ではない

次の2つは同じではない。

  • acquisition matrix:実際に取得した独立データ数
  • reconstruction/display matrix:補間後に表示する画素数

例:Acquisition 256 freq × 192 phase、Reconstruction 512 × 512 と表示されている場合、512×512で見えていても独立した空間情報が512×512相当に増えたわけではない。

zero fillingやinterpolationで画像の見た目が滑らかになることはあるが、真の空間分解能が同じ割合で向上するわけではない。


10 マトリクスと撮像時間

位相・周波数・表示で影響が違う

「マトリクスを大きくすると撮像時間が延びる」は、方向を区別しなければ不正確である。

変更 撮像時間 その他の影響
位相マトリクスを増やす 原則延長 pixel小・SNR低下・motion時間増
周波数マトリクスを増やす 同割合ではない readout・BW・minimum TE・chemical shiftに影響
表示マトリクスだけ増やす 増えない 補間で滑か・真の分解能は増えない

「256×256から512×512にしたら撮像時間が2倍になる」といった説明は避ける。


11 空間分解能・SNR・撮像時間のトレードオフ

分解能を上げると何が起きるか

分解能を上げる調整では、一つの項目だけを改善することは難しい。

調整 期待できること 悪化する可能性
FOVを小さくする pixel size小・面内分解能向上 SNR低下・折り返し・min FOV制限・歪み
マトリクスを増やす pixel size小・小構造の描出改善 SNR低下・位相で時間延長・周波数でBW調整
スライスを薄くする スライス方向分解能向上・partial volume抑制 SNR低下・スライス数増・cross-talk・gap

分解能だけでなく、SNR・撮像時間・折り返し・患者の静止可能時間を同時に確認する。

空間分解能、SNR、撮像時間のトレードオフ

空間分解能・SNR・撮像時間の三者を、最終的な診断価値からバランスさせる。


12 代表的シーケンスを数値だけで分類しない

数値ではなく主要因で整理する

代表的なシーケンスは、固定したTR・TE・FAの数値ではなく、目的と主要因で整理する。

シーケンス群 主なコントラスト決定因子 主な特徴・注意点
SE T1強調 短TR・短TE 基本的なT1強調の理解に適する
FSE/TSE T2強調 長TR・長いeffective TE・ETL・echo spacing 高速だがT2 blurring・脂肪信号変化に注意
FLAIR TR・TE・TI・k-space ordering CSF抑制。2Dと3Dで設定・特性が異なる
STIR TR・TE・TI B0不均一に強い脂肪抑制。造影後評価に注意
Spoiled GRE T1強調 TR・TE・FA・spoiling 3D造影撮像等。FAは必ずしも大きくない
T2* GRE TE・FA・TR・磁化率 出血・鉄沈着に高感度だが磁化率AFも受けやすい
SWI magnitude・phase・TE・分解能 単なる低FA GREではなく位相情報処理が重要
Single-shot FSE echo train・effective TE・PI 体動に強いがぼけ・コントラストに注意
DWI/EPI b値・TE・EPI factor・BW 高速だが歪み・磁化率に注意
3D FSE/TSE variable refocusing・ETL・partition 高分解能・多断面再構成に有用だがぼけ・長時間化に注意

数値を示す目的は「その値を覚えさせること」ではなく、「なぜその範囲になるのかを考える材料を与えること」である。


13 体格が大きい患者

FOVを広げるだけでは分解能が下がる

確認する項目:

  • 解剖学的な必要範囲がFOV内に入っているか
  • 位相方向の折り返しが起こらないか
  • コイルの感度範囲から外れていないか
  • 装置のbore・table weightに問題がないか
  • SAR制限に達していないか
  • parallel imagingのgeometryが成立しているか
  • 脂肪抑制の均一性が保てるか

FOVを広げれば折り返しは抑えやすいが、同じマトリクスではpixel sizeが大きくなり分解能が低下する。そのため単にFOVを広げるのではなく、必要に応じて次を再調整する。

  • acquisition matrix・スライス厚・NEX
  • receiver bandwidth・parallel imaging factor
  • phase oversampling・presaturation・周波数・位相方向

14 小児や小柄な患者

低下の程度はFOVとマトリクスの比で決まる

成人用の広いFOVをそのまま使うと、対象部位に対してpixel sizeが大きくなりやすい。ただし「解像度が半分になる」と固定的に表現することはできない。低下の程度はFOVとacquisition matrixの比で決まる。

同じ256 matrixでFOVだけを変えた場合:

FOV pixel size
220 mm 約0.86 mm/pixel
160 mm 約0.63 mm/pixel

220 mmのpixel sizeは160 mmと比較して約1.4倍になる。

必要範囲を十分に含めたうえでFOVを調整し、SNR低下・折り返し・motion・コイル感度・必要な病変サイズ・検査時間を確認する。


15 体動が多い患者

診断情報を短時間で確保することを優先

体動対策では、単に高分解能化するより、診断に必要な情報を短時間で確保することを優先する場合がある。

検討できる方法:

  • 優先順位の高いシーケンスを先に撮る
  • 位相マトリクスを減らす・NEXを調整する
  • ETL/turbo factorを増やす
  • parallel imaging・partial Fourier・compressed sensingを使用する
  • motion correction機能・radial系収集を使う
  • single-shot FSEを使用する
  • 撮像断面や位相方向を工夫する
  • 呼吸同期やnavigatorの適応を再検討する

single-shot FSEは1回のecho trainで大部分または全位相エンコードを取得できるため体動に強い。ただしT2 blurring・空間分解能低下・SAR・image contrastの変化・信号減衰・PI使用時のSNR低下のトレードオフがある。

「速いシーケンス=常に高画質」ではない。

患者条件に応じたMRIプロトコル調整

大柄な患者、小児・小柄な患者、体動が多い患者では、守る情報と調整の優先順位が異なる。


16 金属アーチファクト:まず安全性の確認

写るかと安全に撮れるかは別問題

MRIの金属アーチファクトは、主に金属周囲の強いB0不均一によって生じる(信号欠損・幾何学的歪み・voxel内位相分散・周波数方向の位置ずれ・スライス方向の歪み・脂肪抑制不良)。大きさは金属の実寸だけで決まらない。

アーチファクト対策より先に、インプラントのMR安全性を確認する。

  • MR Safe/Conditional/Unsafeの区分
  • 静磁場強度・spatial gradient
  • SARまたはB1+rms・撮像時間制限・コイル制限
  • 植込み後の期間・体位制限
  • 装置メーカーが示す条件

「写るかどうか」と「安全に撮像できるか」は別問題である。


17 金属アーチファクト:基本的な低減法

各変更には必ず代償がある

状況に応じて次を検討する。GREよりSE/FSE系を優先、TEを短く、readout bandwidthを広げる、voxelを小さく、スライスを薄く、周波数方向を変更、1.5Tの検討、STIRの検討、高帯域RFパルス、適切なshim、断面変更。

ただし各変更にはトレードオフがある。

変更 改善しやすいこと 悪化しやすいこと
bandwidthを広げる 周波数方向の位置ずれ・chemical shift・歪み・minimum TE SNR
voxelを小さくする voxel内位相分散・空間分解能・局所的な信号欠損 SNR・撮像時間
STIRを使う B0不均一に強い脂肪抑制が安定する場合がある SNR低下・造影後T1短縮組織も抑制

STIRは目的によってはchemical shift-based fat-water separationなど別手法を選ぶ。


18 金属アーチファクト:専用技術とCT MARとの区別

MRIとCTで原理が違う

MRIの専用金属アーチファクト低減技術:

  • VAT:主に面内の歪みを低減
  • SEMAC:追加のスライスエンコードで面外方向を含む歪みを補正
  • MAVRIC:複数の周波数帯域を収集して合成
  • MAVRIC SL:MAVRICとSEMACの要素を組み合わせた方法
  • WARP:複数の金属AF低減技術を含むメーカー固有の名称

これらは撮像時間が長くなる場合があり、すべての装置で使えるわけではない。

またCTのMARとは原理が異なる。CTでは投影データ補正・逐次近似再構成・dual-energy/spectral CTなどを利用して金属アーチファクトを軽減する。

「MARS系」という曖昧な表現を避け、MRIの具体的な方法名を記載する。

MRI金属アーチファクト対策の優先順位

安全性確認を起点に、基本調整からVAT・SEMAC・MAVRICへ段階的に検討する。CT MARは異なる原理である。


19 追加撮像を考えるための思考手順

設定値ではなく未解決点から逆算する

追加撮像が必要か考える際は、設定値からではなく診断上の未解決点から逆算する。

  1. 何が不足しているか ── 病変の存在・範囲・位置関係・性状(出血/脂肪/石灰化/線維化)・造影効果・神経/腱/血管との関係・アーチファクト・partial volume・断面
  2. コントラストを選ぶ ── 不足情報に適した強調を選択(次スライド参照)
  3. 断面・分解能 ── 病変長軸・関係構造・partial volume・必要範囲・2Dか3Dか・SNR低下に耐えられるか
  4. 患者が耐えられるか ── 疼痛・体動・呼吸停止・残り時間・SAR・造影タイミング・騒音・閉所不安・疲労
  5. 技師の裁量範囲 ── 施設ルール・依頼内容・医師指示・裁量範囲に従う

重要なのは「追加するかを即断すること」ではなく、「何が不足しているかを整理し、適切な相談ができること」である。

不足情報から追加撮像を選ぶ思考フロー

不足情報、目的、コントラスト、方向・分解能、患者条件を整理し、裁量範囲に応じて実施または相談する。


20 コントラクト選択の対応表

不足情報に適したコントラスト

確認したい情報 検討する撮像
水分・浮腫 T2強調・脂肪抑制T2・STIR
脂肪の有無 脂肪抑制前後・chemical shift imaging・Dixon系
出血や鉄沈着 T2* GRE・SWI
拡散制限 DWI・ADC
造影効果 造影前後T1強調
神経走行 高分解能T2・3D撮像・必要方向の再構成
金属周囲 高bandwidth FSE・STIR・SEMAC・MAVRICなど
血流や血管 TOF・phase contrast・造影MRAなど
病変と周囲構造の関係 直交断面・病変長軸に合わせたoblique撮像

21 追加指示に即応するための4つの確認

指示を診断目的に変換する

追加撮像の依頼を「シーケンス名の指示」ではなく「どの情報が不足しているか」という診断目的に変換する。

例えば「冠状断を追加してください」と言われたら、単に撮るだけでなく、頭尾方向の広がり・左右差・神経/腱との位置関係・partial volume・断面の傾きを考える。この「指示の背景」を考える習慣が応用力につながる。

追加指示を受けたときの4つの確認:

  1. 目的 ── 存在/範囲/性状/位置関係のどれか、AF対策か、手術計画か
  2. コントラスト ── T1/T2/PD/脂肪抑制/DWI/T2*/造影のどれか、同断面か異コントラストか
  3. 方向と範囲 ── 適切な断面、病変長軸、必要範囲、小FOV/高分解能の要否
  4. 患者条件 ── 残り時間・体動・疼痛・SAR・造影タイミング・耐えられるか

この4点を整理すると、「何を撮ればよいか」だけでなく「なぜその撮像が必要か」を理解しやすくなる。


22 指示がない場合の基本行動

診断できる画像が得られているかを技術的に確認

追加指示がないからといって、すべての画像が十分とは限らない。ただし技師が独断で診断したり施設基準を超えて追加したりするのも適切ではない。次の2つを基本とする。

自分の中に確認項目を持つ

標準プロトコル撮像後に、必要な解剖学的範囲・motion artifact・折り返し/金属AFと病変の重なり・脂肪抑制の均一性・断面の適切さ・必要コントラスト・追加確認所見・再撮像/相談基準を確認する。これは病変を診断することが目的ではなく、

診断に使える画像が得られているかを技術的に確認する

ために行う。

施設の相談基準に従う

画像不足や異常所見の可能性があれば、担当医・放射線科医・上級技師・当直責任者・検査責任者へ相談する。技師判断で再撮像できる条件・医師確認が必要な条件・緊急連絡所見・造影追加手順・プロトコル変更の承認者・記録方法は、自施設で明確にしておく。


23 質問しにくい環境での聞き方

相手の負担を減らし仮説を確認する

忙しい医師や先輩に質問するときは、相手の負担を減らしながら自分の仮説を確認できる形にする。心理学用語をそのまま適用するのではなく、実務上「回答しやすい質問」に整える。

選択肢提示型

今回の冠状断追加は、病変の頭尾方向の広がりを見る目的でしょうか。それとも神経との位置関係を見る目的でしょうか。

結論を先に伝える

腰椎T2矢状断でL4/5が体動により評価困難です。再撮像してよいでしょうか。

(何が問題か → 何を提案するか → 何を確認したいか)

非同期コミュニケーション

院内チャット・所見共有システム・電子カルテの連絡機能(ただし記載権限・診療記録・緊急性・個人情報・既読確認を確認)。緊急性の低い学習上の質問や後日確認できる内容に適する。

先輩技師を経由する

このケースで追加撮像があるとすれば、どのような目的が考えられますか。

正解をすぐ教わるのではなく、仮説を伝え→先輩の考えを聞き→実際の結果と照合し→次回の判断基準にする。


24 読影レポートを使った事後検証

レポートは仮説を確認する材料

読影レポートと自分が撮像した画像を照合することは、学習に役立つ。

確認する項目:

  • どのシーケンスが診断に寄与したか
  • どの断面で病変が分かりやすかったか
  • どの所見が重要だったか
  • 自分が気づいた画像変化と読影結果が一致したか
  • 追加撮像が診断にどう役立ったか
  • 不足していた情報があったか

ただし読影レポートだけで「本当は何を追加すべきだったか」を完全に判断できるわけではない。レポートには画像不足や読影医が追加したかった撮像が明記されないこともある。

読影レポートは次の位置づけで使う。

  • 自分の仮説を確認する材料
  • 重要所見を学ぶ材料
  • 追加撮像の有用性を振り返る材料

必要に応じて、カンファレンスや先輩・医師への確認と組み合わせる。


25 追加撮像の思考トレーニング

1検査につき1つに絞る

日常業務で次の問いを繰り返す。

  1. このシーケンスは何を明るくし、何を暗くするために使われているか
  2. この画像がなければ、どの情報が不足するか
  3. この設定を変更すると、何が改善し、何が悪化するか
  4. 患者が動いた場合、最初に何を残すべきか
  5. 病変を疑った場合、どのコントラスト・断面・分解能を追加候補にするか
  6. 今回の追加撮像は、存在・範囲・性状・位置関係のどれを確認するためか
  7. 技師判断で実施できる範囲か、医師への確認が必要か

これらを毎回すべて考える必要はない。

1検査につき1つの問いに絞り、継続的に考える方が定着しやすい。


26 学びを記録として蓄積する

記録して初めて判断基準に育つ

質問や検証で得た知識は、その場で理解しただけでは定着しにくい。短い形式で記録する。

項目 例
日付・検査種別 頭部造影MRI、腰椎MRIなど
問題・疑問 体動/金属/脂肪抑制不良/範囲不足、なぜ追加/変更したか
自分の仮説 病変範囲・コントラスト・AF対策など
確認方法・変更条件 医師質問/先輩相談/レポート照合、FOV/matrix/TE/BW/方向
改善した点・悪化した点 SNR/歪み/描出/時間、SNR低下/時間延長/ぼけ
結果・次回の判断基準 実際の意図・診断への寄与、どの条件で同対応するか

記録で避けるべきこと:

  • 成功例だけ残す ── 悪化した点を記録しないと、別症例へ不適切に適用する
  • 数値だけ記録する ── なぜ変更したか/期待したか/改善・悪化/患者条件をセットで
  • 一例を一般化する ── 磁場・装置・部位・シーケンス・コイルも可能な範囲で残す

MRI撮像経験を判断基準へ変える学習ループ

撮像、問題発見、仮説、相談、比較、レポート照合、記録を循環させ、次の判断基準へつなげる。


27 学習を継続するための小さな実践

1日1パラメータ、月1振り返り

1日1パラメータ

その日の検査から1つだけ選ぶ。なぜ位相方向がこの向きか、なぜこのFOVか、なぜETLがこの値か、なぜSTIRか、なぜbandwidthを広げているか。

変更前後を比較する

同一症例やファントムで1項目だけ変更して比較する(ただし臨床検査で不要な追加撮像で患者負担を増やさない)。既存画像・ファントム・検討時間・教育用データ・日常の再撮像の範囲で行う。

月に1回振り返る

記録を月単位で見直し、よく起こる問題・苦手な部位・判断に迷いやすいパラメータ・確認したい項目・プロトコル改善候補を整理する。

同じ問題が繰り返される場合、個人の知識不足だけでなく、標準プロトコル・教育方法・装置設定・連絡体制に問題がある可能性もある。必要に応じて個人対応ではなく部署全体での改善を検討する。


まとめ

プロトコルを判断材料に変える

MRIの応用力は、TR・TE・FAなどの代表値を暗記するだけでは身につかない。各パラメータを次のトレードオフとして理解することである。

  • コントラスト・空間分解能・SNR・撮像時間・アーチファクト・SAR・患者負担

マトリクスは数字だけ並べず、周波数方向と位相方向を明記する。撮像マトリクスと表示マトリクスを区別し、位相と周波数が撮像時間へ与える影響の違いを理解する。金属アーチファクトはMRIの基本調整・VAT・SEMAC・MAVRICと、CTのMARを区別する。

追加撮像では、次の順で考える。

  1. 何の情報が不足しているか
  2. どのコントラストが必要か
  3. どの断面・分解能が必要か
  4. 患者が耐えられるか
  5. 技師の裁量範囲か、医師確認が必要か

「なぜこの数値なのか」を問うだけでは不十分である。

この数値を変えると、何が良くなり、代わりに何が悪くなるのか。 この追加撮像によって、どの診断情報を補おうとしているのか。

そこまで説明できるようになったとき、プロトコルは単なる手順書ではなく、患者ごとに調整できる判断材料へと変わる。

本稿の数値や設定例は原理理解のための目安であり、臨床プロトコルとしてそのまま使用することを推奨するものではありません。適切な設定は磁場強度・装置・シーケンス・部位・コイル・患者条件・施設基準によって変化します。プロトコル変更時は自施設の評価と読影医との合意のもとで行ってください。教育目的の個人の学習記録です。