〜効果はほぼゼロで、コストはちゃんとある。なら、いっぺん立ち止まって考えよう〜
先に結論だけ言うときます
- 肌色の薄いテープ剤は、ほとんどの撮影ではがさんでも画像は変わりません。物理的に見ても、Tシャツと大差ないんです。
- せやけど「全部そのまま」でもあかんくて、パップ剤が関心領域にかかる場合、低kVの末梢撮影、肋骨、小児、金属を含む貼付物は例外です。
- 湿布と同じように、「理由を聞かれたら答えられへんけど、なんとなくやってること」は他にもあります。生殖腺防護、全員の検査着への更衣、CTでの体表遮蔽なんかがそうです。
- 一方で造影まわりのことは、技師だけで変えたらあきません。これは別枠で整理しました。
はじめに:うちの現場の話
僕はけっこう忙しい整形外科で一般撮影をやってるんですけど、レントゲンのときに湿布をはがしてもらってません。MRIはもちろん外してもらいますよ。それはまた別の話です。
はがさへん理由はシンプルで、比べてみても変わらへんからです。
周りの技師さんは、はがしてもらう人の方が多いです。それで「なんで外すんですか?」って聞いてみたら、だいたい返ってくるのが「何もない方がええでしょ」なんですよね。
いや、それはそうなんですけど。ほんならみなさん、腰椎撮るときにTシャツも全部脱いでもろてはります? そこら辺のTシャツより、テープの湿布の方がよっぽど薄いですやん。
この記事は、誰かを責めたいわけやないんです。「理由を説明できひんまま続けてることって、意外と多いんちゃう?」っていう話を、根拠つきで一緒に考えたいだけです。
1. 湿布、ほんまにはがさなあかんのです?
物理で考えたら、こうなります
X線の減衰は I = I₀・e^(−μx) です。効いてくるのは、素材の線減弱係数 μ と厚さ x です。
- テープ剤: 支持体と粘着層を合わせても、厚さは0.1〜0.3mm程度です。素材は高分子系で、実効原子番号は軟部組織や布とほとんど変わりません。
- 腰椎正面: 80〜90kV前後で、20cm以上の組織を通します。
20cm以上の軟部組織に、0.1〜0.3mmの「ほぼ軟部組織」が足されるだけです。減衰への寄与は誤差の範囲で、比べても差が見えへんのは当たり前なんですよね。
色は関係あらへんです
「白い湿布ははがすけど、肌色はええかな」っていう感覚の人もいてはると思います。でも、色とX線の写り方は無関係です。
白いパップ剤が写りやすいのは、白いからやなくて、厚さが1mm前後ある含水ゲルやからです。製品によっては、カオリンや酸化チタン、酸化亜鉛みたいな無機成分も入ってます。つまり、テープ剤とパップ剤は別物として考えなあかんのです。
テープ剤・パップ剤・衣服について、X線に効く特性を並べるとこうなります。
| テープ剤 | パップ剤 | 薄手の無地の衣服 | |
|---|---|---|---|
| 厚さの目安 | 0.1〜0.3mm | 1mm前後(含水ゲル) | 0.3〜1mm程度 |
| 主な素材 | 高分子系の支持体+粘着層 | 含水ゲル。製品によりカオリン・酸化チタン・酸化亜鉛などを含有 | 綿・ポリエステル等 |
| X線減衰 | 軟部組織や布とほぼ同等 | 厚みと無機成分により、条件次第で写る | 軟部組織とほぼ同等 |
| 写り込み | 「面」としてはほぼ出ない(「縁」は処理次第で残りうる) | 関心領域にかかれば写りうる | 縁・縫い目・プリントが主な課題 |
Tシャツはええのに、湿布はあかんの?
ここが一番引っかかってるところです。
「異物は全部外す」というルールなら、衣服も全部脱いでもらわんと筋が通りません。でも実際には、どこの施設も薄手の無地の服やったらそのまま撮ってはりますよね。服を脱いでもらうのは、ボタン、金属、プリント、厚い縫い目があるときです。
ということは、みんなほんまは**「異物かどうか」やなくて、「関心領域に、輪郭のはっきりした減衰差を作るかどうか」**で判断してはるんです。この基準を湿布にも当てはめたらええだけの話やと、僕は思ってます。
はがすことにもコストがあります
「はがしといて損はないでしょ」と言われがちですけど、損はけっこうあります。
- 皮膚への負担: 高齢の患者さんの薄い皮膚やと、はがしたときに表皮剥離が起こることがあります。医療用粘着剤による皮膚障害(MARSI)として、看護の分野ではちゃんと問題にされてます(McNicholら, 2013)。
- 湿布の無駄: 一回はがすと、粘着力が落ちて貼り直しにくくなります。しかも日本では、湿布薬の処方は1処方63枚までです(2022年度診療報酬改定で70枚から変更)。患者さんの手持ちの湿布を1枚無駄にさせてることになるんですよね。
- 時間: 1人あたり数十秒でも、忙しい外来やったら積み重なります。待ち時間にも直結します。
「効果がほぼゼロで、コストはちゃんとある」。そう考えたら、「とりあえずはがす」はあんまり合理的やないと思いませんか。
それでも、はがしてもらう場面はあります
ここは誤解してほしくないとこです。僕も「何があっても絶対はがさへん」わけやないです。
- パップ剤が関心領域にかかってるとき: 厚みと無機成分があるので、条件次第で写ります。
- 手指・足趾・舟状骨など、低kVの撮影: 透過する組織が薄いので、外にある物の影響が相対的に大きくなります。マンモで制汗剤やパウダーが写るのと同じ理屈です。
- 肋骨骨折を疑うとき: 皮膚のしわや服の縁が骨折線や気胸線に似て見えることは、よく知られたアーチファクトです。湿布の直線的な縁も、同じように紛らわしくなりえます。
- 小児: 体が薄くて、骨も細いからです。
- 石灰沈着や小さい異物を探すとき: 淡くて小さい所見を見逃したくない撮影です。
- テープにしわや浮きがあるとき: 重なりや空気の層があると、縁のコントラストが強くなります。
- 金属を含む貼付物: エレキバン類、カイロ、アルミの支持体を使った経皮吸収型製剤なんかは、一般撮影でもはっきり写ります。
もうひとつ気をつけておきたいのが、DRの画像処理です。周波数処理やエッジ強調で、低コントラストでも直線的な縁が強調されることがあります。湿布の「面」は写らんくても、「縁」は線として残りうるんです。モニタで見比べて差がなくても、処理条件によって見え方は変わります。
あと、ニトログリセリンやフェンタニルなど、湿布以外の処方貼付剤は、一般撮影では基本そのままで大丈夫です。むしろ勝手にはがしたらあきません。薬効が途切れてしまいます。MRIのときは、金属を含む製品かどうかの確認が必須です(FDAが2009年に、MRI検査中の熱傷について注意喚起してます)。
ここまでの判断をフローにまとめると、こうなります。
flowchart TD
A[関心領域に貼付物がある] --> B{パップ剤?}
B -- はい --> H[はがしてもらう]
B -- いいえ(テープ剤) --> C{金属を含む貼付物?<br>エレキバン・カイロ等}
C -- はい --> H
C -- いいえ --> D{低kVの末梢・肋骨・小児?<br>淡い所見を探す撮影?}
D -- はい --> H
D -- いいえ --> E{テープにしわ・浮き・重なりがある?}
E -- はい --> H
E -- いいえ --> F[そのまま撮影する]
F --> G[MRIの場合は<br>金属含有の有無を必ず確認]
日本の現状
一般撮影で湿布の除去を明確に求めた国内のガイドラインや学会の声明は、僕の知る範囲ではありません。教科書や施設マニュアルにある「撮影範囲の異物を除去する」っていう一般原則を、湿布にもそのまま当てはめてる、というのが実態やと思います。
つまり、「はがさなあかん」という根拠も、「はがさんでええ」という根拠も、はっきりは示されてへん状態なんです。せやから、自分の施設で一回確かめてみるのが一番説得力あると思います。ファントムにテープ剤とパップ剤を貼って、臨床と同じ条件と画像処理で、ありなしを比べてみてください。
2. 同じ構造の話、他にもありますやん
湿布の話をしてて気づいたんですけど、「理由を聞いたら『その方が安心やから』しか返ってけえへんもの」って、他にもけっこうあるんですよね。ここでは、技師の裁量で見直せるものだけを挙げます。
| なんとなくやってること | 根拠 | 代わりにどうする |
|---|---|---|
| テープ剤をとりあえずはがしてもらう | 薄くて軟部組織に近い素材なので、影響はほぼない。国内に除去を求める基準も見当たらない | 原則そのまま撮る。パップ剤、低kVの末梢、肋骨、小児、金属を含むものは例外にする |
| 薄手の無地の服でも、全員検査着に着替えてもらう | 写り込みの根拠は乏しい | 金属、プリント、厚い縫い目、ボタンがあるときだけ更衣してもらう |
| 一般撮影で生殖腺防護をする | AAPM(2019)、NCRP Statement No.13(2021)、BIR(2020)がルーチン使用の中止を勧告。ICRP 103で生殖腺の組織加重係数が0.20から0.08に下がった | ルーチンではやめる。照射野の絞りを徹底する。希望された場合の説明手順を用意する |
| 撮影範囲外の部位でも、妊婦さんのお腹に鉛エプロンを当てる | 胎児線量の大部分は体内散乱によるもので、外からの遮蔽はほとんど効かない(AAPM 2019) | 照射野の絞りを最適化する。安心のために使う場合は、照射野やAEC領域から離して置く |
| 四肢や胸部の撮影でも、妊娠確認を厳しくやる | ICRP Publication 84では、100mGy未満の胎児線量は中絶の理由にならないとされている。四肢や胸部の撮影での胎児線量は、事実上ゼロに近い | 腹部・骨盤のCT、透視、IVRで重点的に確認する |
| CTで眼・甲状腺・乳腺にビスマス遮蔽を乗せる | AAPM(2012)は推奨していない。AECとの干渉やノイズ増加の問題がある | 管電流変調や臓器線量変調など、装置側の手段を使う |
| ポータブル撮影のたびに同室の患者さんに退避してもらう | 2m離れた位置での散乱線量はごくわずか | 照射方向に人がいないことの確認と、距離の確保を徹底する |
| タトゥーやアートメイクを理由にMRIを断る・延期する | ACR Manual on MR Safetyでは禁忌とされていない。発熱は稀で、多くは軽度 | 冷却、説明と同意、異常時にすぐ知らせてもらう約束で対応する |
ここから、日本の状況と照らし合わせながら、いくつか補足しておきます。
生殖腺防護
海外ではもう「ルーチンではやらへん」が主流になってます。
- 防護具がずれたら再撮影になります。
- AEC領域にかかったら、かえって線量が増えます。
- 骨盤や股関節の病変を隠してしまうこともあります。
日本では、養成課程で長いこと「やるもの」として教わってきた背景があって、施設ごとの温度差が大きい印象です。国内の関連団体でも見直しの議論が進んでるので、最新の見解は必ず確認してください。この話は、「生殖腺防護はまだ守るべきか ── 患者側シールドの現在」で別途くわしく整理してます。
妊娠確認
日本でも、産婦人科診療ガイドライン(産科編)に、一定の線量未満では胎児への影響は増えないという考え方が示されてます(記載されてる閾値は版で確認してください)。それでも現場では、四肢の撮影でも妊娠確認を厳しくやってるところがありますよね。
ただ、妊娠確認は医師の判断も関わるところなので、運用を変えるなら必ず医師と相談してください。
ポータブル撮影
医療法施行規則では、移動が困難な患者さんに対しては、病室でのポータブル撮影が認められてます。同室の人の退避まで一律に求めた規定はないはずです。気になる人は、病棟で線量計を置いて実測してみると、話が早いですよ。
タトゥー・アートメイク
日本ではアートメイクをしてはる人がかなり増えてます。施設によって対応がバラバラなので、施設としての方針を決めといた方がええと思います。最終判断は検査担当医と一緒にやるのが前提です。
3. 別枠:これは技師だけで決めたらあきません
ここからの話は、海外のガイドラインでは見直されてても、日本の添付文書や国内ガイドライン、医師の指示が関わるものです。技師が「根拠ないし、やめとこ」で変えたらあかんやつなので、読み物として知っておくくらいにしてください。
| 項目 | 海外の考え方 | 日本で気をつけること |
|---|---|---|
| 造影CT前の絶食 | ACRとESURは、低浸透圧・等浸透圧造影剤では不要としている | 施設の規程や医師の指示がある。変えるなら放射線科医と合意を取る |
| 全例での腎機能検査 | ACRはリスク因子のある人に絞った確認を推奨 | 「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン」との整合を取る |
| 造影後の授乳中断 | ACRとESURは、中断は不要としている | 添付文書に記載のある製剤がある。説明は医師と統一する |
| メトホルミンの休薬 | ACRは、eGFR30以上で急性腎障害がなければ休薬不要としている | 国内の勧告や添付文書に従う。処方医が判断することになる |
どれも「海外はこうなってますよ」と情報提供するところまでが、技師の役割やと思います。運用を変えるかどうかは、放射線科医、医療安全委員会、薬剤部と一緒に決めることです。
4. 患者さんに聞かれたときの説明例
見直しを始めると、患者さんから「前の病院では外してって言われたけど?」って聞かれることがあります。そういうときに慌てんで済むように、説明の例を置いときます。
僕は普段もうちょっとくだけた感じで話してますけど、ここでは誰でも使いやすいように標準語で書いてます。
湿布をそのまま撮るとき
「この薄いタイプの湿布はレントゲンにほとんど写らないので、貼ったままで大丈夫ですよ。はがすと粘着力が落ちてもったいないですし、お肌にも負担がかかりますから。」
湿布をはがしてもらうとき
「今日は細かい骨を見る撮影なので、湿布の縁が線のように写って見間違えないように、一度はがしていただけますか。新しいものを貼るのは撮影後で大丈夫です。」
生殖腺防護をしないとき
「以前は防護具を使っていましたが、最近の研究で、ずれて撮り直しになったり、かえって写したい部分を隠したりするデメリットの方が大きいとわかってきました。その代わりに、撮影する範囲を必要なところだけに絞って、被ばくを減らしています。」
妊婦さんに鉛エプロンについて聞かれたとき
「赤ちゃんへの影響は、お腹の中で散らばる放射線がほとんどなので、外からエプロンをかけても実はあまり変わらないんです。今日の撮影はお腹から離れた場所なので、赤ちゃんへの影響はほぼありません。ご心配でしたら、撮影の邪魔にならない位置にエプロンをかけることもできますよ。」
「前の病院では外してって言われた」と言われたとき
「施設によって考え方が少し違うんです。うちでは画像に影響がないことを確認したうえで、患者さんの負担を減らすためにそのまま撮っています。もちろん、気になるようでしたらはがしていただいても大丈夫ですよ。」
最後の一言が地味に大事やと思ってます。「うちはこうです」で押し切らんと、患者さんが選べる余地を残しといてあげてください。
5. 免責・注意事項
- この記事は、筆者の現場での経験と、2026年6月時点までに公表されている文献をもとに書いた個人の見解です。所属施設や団体の公式見解ではありません。
- 紹介したガイドラインや声明は、改訂されることがあります。引用したり、運用変更の根拠にしたりする前には、必ず原典の最新版を確認してください。
- 運用を変えるときは、個人の判断でやるんやなくて、施設の規程に沿って、放射線科医や関係部署と合意を取ってからにしてください。
- 第3章で挙げた造影関連の項目は、添付文書、国内ガイドライン、医師の指示が優先されます。技師の判断で変えないでください。
- MRIでの金属を含む貼付物の除去、医療用貼付剤の確認は、この記事の主張とは関係なく、必ず実施してください。
- 撮影条件や装置、画像処理によって、写り込み方は変わります。「うちの環境では変わらへん」と言えるのは、自分の施設で確かめた場合だけです。
おわりに
「何もない方がええでしょ」っていう感覚自体は、悪いもんやないです。患者さんのためを思って、丁寧にやろうとはる気持ちから来てるんやと思います。
ただ、その「丁寧さ」にも、患者さんの皮膚、湿布1枚、待ち時間っていうコストがかかってます。それを天秤にかけたうえで「それでもやる」なら、ちゃんと理由として説明できるはずなんです。
説明できひんかったら、いっぺん立ち止まって考えてみる。それくらいの気持ちで、明日の撮影から試してみてもらえたら嬉しいです。
参考文献
- American Association of Physicists in Medicine (AAPM). AAPM Position Statement on the Use of Patient Gonadal and Fetal Shielding (PP 32-A). 2019.
- National Council on Radiation Protection and Measurements (NCRP). Statement No. 13: NCRP Recommendations for Ending Routine Gonadal Shielding During Abdominal and Pelvic Radiography. 2021.
- British Institute of Radiology (BIR) ほか. Guidance on using shielding on patients for diagnostic radiology applications. 2020.
- International Commission on Radiological Protection (ICRP). Publication 103: The 2007 Recommendations of the International Commission on Radiological Protection. 2007.
- ICRP. Publication 84: Pregnancy and Medical Radiation. 2000.
- AAPM. AAPM Position Statement on the Use of Bismuth Shielding for the Purpose of Dose Reduction in CT Scanning. 2012.
- American College of Radiology (ACR). ACR Manual on MR Safety(最新版).
- ACR. ACR Manual on Contrast Media(最新版).
- European Society of Urogenital Radiology (ESUR). ESUR Guidelines on Contrast Agents(最新版).
- U.S. Food and Drug Administration (FDA). Public Health Advisory: Risk of Burns during MRI Scans from Transdermal Drug Patches with Metallic Backings. 2009.
- McNichol L, et al. Medical Adhesives and Patient Safety: State of the Science. Consensus Statements for the Assessment, Prevention, and Treatment of Adhesive-Related Skin Injuries. Journal of Wound, Ostomy and Continence Nursing. 2013.
- 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン 産科編(最新版).
- 日本腎臓学会・日本医学放射線学会・日本循環器学会. 腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン 2018.
- 厚生労働省. 令和4年度診療報酬改定(湿布薬の1処方あたりの枚数制限:63枚).
- 医療法施行規則(エックス線装置の使用場所に関する規定).
※ 文献の年や版は筆者の知る範囲で記載しています。引用する前に原典で確認してください。ポータブル撮影時の散乱線量については、特定の文献ではなく、複数の施設の測定報告に基づく一般的な知見として記載しています。